アニメとモーショングラフィックスの融合で、アニメはもっと面白くなる。【後編】

アニメ『天元突破グレンラガン』『キルラキル』で知られる今石洋之氏(監督)と中島かずき氏(脚本)による初のオリジナル劇場アニメーションが『プロメア』だ。「世界の半分が焼失した事態の引き金となったのは、炎を操る人種〈バーニッシュ〉だった。〈バーニッシュ〉の一部攻撃的な面々は〈マッドバーニッシュ〉を名乗り、再び世界に襲いかかる。自治共和国プロメポリスの司政官は、対バーニッシュ用の高機動救命消防隊〈バーニングレスキュー〉を結成した」というストーリー。
この『プロメア』に参加したCGアーティストの荒牧康治氏(シグニフ 代表取締役)、千合洋輔氏(フリーランス)、釣井省吾氏(カラー アニメーター/デザイナー)、小林浩康氏(カラー 取締役 デザイナー)の4人にお話しを伺った。
インタビュー●大橋博之

『プロメア』でのCinema 4Dの使い方

監督の高い要求に応えるための柔軟な設計

─Cinema 4Dを使っていて便利なところを教えてください。

荒牧今回、自分としてはCinema 4Dの新しい使い方に挑戦しています。『プロメア』では、クローナーやエフェクタによるアニメーションだけでは細かい表現がしきれないところがあって。なので、手打ちでアニメーションをつけた後に、エフェクタで更にアニメーションやエフェクトを追加してあります。具体的にいうとトリガーのコーポレートロゴ部分です。
手打ちで三角形のオブジェクトにアニメーションを付けたあと、コネクトでつなげパラメーターをいじることでオブジェクトを繋げたり。炎のゆらめきを与えるために手打ちのあとで、シェーダーエフェクタでゆらぎを加えたり。手打ちとmographのいいとこ取りをしています。


▲手打ち(!)でアニメーションを付け、MoGraphとコネクト機能を使って独特の動きを作り出す。

─手打ちにしないほうが楽なのでは?

荒牧:普通考えればそうなんですが。アニメの監督やスタッフの方は1コマ1コマ見るのが当たり前なので、アニメーションもオブジェクトレイアウトも妥協できないんです。

千合:コマ送りでみんな見るんですよ。

荒牧:「このオブジェクトのサイズだけ少し大きくしたい」とか「もうちょっとずらしたい」とか。そういうことがよくあるので。だったら手打ちでやったほうが工程は増えるけれど、監督の要望に沿って最後まで調整できますから。

─コマで見るんですね。

小林人によりますけど、大概コマで見ていますよね。

釣井モーショングラフィックスをコマで考える人は少ないかもしれないですね。

荒牧だから、アニメの仕事をいくつかやってみて「これはコマでやっていかないと駄目だ」と思ったんです。特にコーポレートロゴは、すごく重要な部分なので、これは気合を入れてやっていこうと。

─大変ですね。

荒牧今回、他にも特殊な使い方をいろいろやっています。アバンタイトルで使用しているグラデーションは3レイヤー重ねたものをレンダリングしています。

─3レイヤー重ねているのはどうしてですか。

荒牧:後ろのレイヤーでもとになるグラデーションを作って、中間レイヤーでそれを三角状に反射、手前のレイヤーはそれをマスクするために使っています。そういうのを使って独特のグラデーション効果を作っています。トリッキーなことはいろいろ導入していますね。



▲ベースのグラデーション、それらを反射させるオブジェクト、マスク、これらのレイヤードによりユニークなグラデーションを表現

千合今回、画面が開くワイプ表現が必要だったのですが、工夫を加えて複雑な質感を出したい。そのために複数の素材を重ねたり参照したりする必要がありました。Cinema 4Dはひとつ作ったアニメーションを元にして、エフェクタなどを活用しながらバリエーションをどんどん作っていきやすいので助かっています。クローナーを活用したり、例えばスプラインに沿って何か起こすようなことへのアクセスがすごく早いので、イメージを組み立てていく段階でひっかかりなく作業を進めることができます。

▲MoGraphエフェクタを活用しアニメーションのバリエーションを増やしていく。

千合あと、これは単に自分の感覚的な話かもしれませんが、いつも2Dレイアウトを組んでアニメーションを作っていくのですが、2Dの作業から3Dの作業へ移っても体感としてはあまり変化がない。平面的表現と立体的表現が入り混じったものを作ることが多いのですが、どちら寄りの作業をしていても純粋にアニメーションとレイアウトに向き合いやすいという利点があります。

荒牧『プロメア』のタイトルアニメーションも特殊で、ちょっと紹介してよいですか?
ちょっと横道に逸れますが、タイトルでは監督から修正の入ったmp4をC4D上に表示しながら作業していたのですが、MP4の読み込みがすごく早くなっていて、これまで以上に快適に作業できました。そういうユーザーフレンドリーな部分が素晴らしい。
『プロメア』のロゴは3Dぽいんですが、デザイナーの方が作った疑似3Dです。そのロゴをそのままCGで作ってしまうと破綻してしまうんです。
それを解決するため、ざっくりと形をとったハリボテのようなモデルに、ロゴをテクスチャーとしてカメラマップで貼り、微妙なパースの違いや、嘘をついている部分がバレないようにしています。こうすることで、ちゃんと3Dモデルとして扱いながら、フィックスポイントではもとのロゴデータと狂いがないものとして扱えます。アニメーション面でも普通に位置パラメーターで動かすのではなく、ポーズモーフを使うことで、後から細かいタイミング調整をできるようにしていました。今石監督とのやりとりの中でエフェクトもつけたいという要望もきて。「動くときにそれぞれの文字が擦れ合って火花みたいなものをだしたい」ということだったので、本編の炎を参考に火花のようなエフェクトを途中に入れています。ここでもコネクトを使ってポリゴン量の調整をしています。


▲破綻しない3Dアニメーションにするため、カメラマップを使いハリボテのようなロゴを作成。


▲修正に細かく対応できるようCinema 4Dのポーズモーフを多用して動きを付けている。

─ここまでエフェクトを使いこなしている人はあまり見たことないですね。

荒牧基礎的なことを踏まえた上でオリジナルな使い方がなにかできないか毎回試行錯誤しています。

─監督の修正指示もある?

荒牧監督の感覚に寄り添うために、後から細かく調整できるようにしておくことは必要ですね。今回はとても求められるレベルが高かったです。監督から直々に手書きで修正した映像が送られてきて、これはやり遂げねばと(笑)。

小林モーショングラフィックスでそこまで要求されることは少ないかもしれないですが、やはりアニメはコマ単位で細やかな調整が必要になることがあるので。クリエイターもそういう仕組みを作らざるを得ないところはありますね。

荒牧でも、そこがアニメの熱量の凄さだとも思います。

─釣井さんはどうですか?

釣井自分の担当が、1カットなんですけど1分数十秒あるカットだったので、いくつかのパートに分割して作っているんです。でも、1カット内での話なので、Aパートで使った素材をそのままKパートでも使う。バラバラで作るのもいいけれど、管理しづらいということがありました。でも、Cinema 4Dだと同時に開いてコピペで持って行くことが容易くできます。その辺はストレスなく作れたので、Cinema 4Dの強いところかなとは思います。素材を分割していても、すぐに参照できる。他のソフトだと一手間かかるのですが、とてもやりやすいです。

荒牧当たり前のように使っている機能なので、便利だとさえ感じていませんでした(笑)。

釣井他のソフトを使ったときにこれができなくてストレスになるんですよね。

アニメとモーショングラフィックスの融合による可能性

─アニメのなかでの3Dの可能性についてどうお考えですか?

荒牧僕は、映像を始めた学生のころからガイナックス作品などアニメに影響を受けていて、アニメーションのケレン味や演出の勉強のためにいろいろな作品をみていました。同じように国内、国外のモーショングラフィックスアーティストも日本のアニメの影響を受けている人は多くいると思います。次のアニメの面白さを考えたらモーショングラフィックスが入ることはよいことなのではないでしょうか。今はまだ、僕たちのモーショングラフィックスは飛び道具みたいな形ですが、それでもよいからアニメ業界に入って行くことが大切だと思っています。そうすることで国内、国外問わず多くのアーティストにアニメと組み合わさった新しいモーショングラフィックスを見てもらえれば良いなと考えています。

千合僕もアニメがすごく好きなんですが、撮影処理による質感の追求にいつも感動しています。いくつものレイヤーを重ね合わせ、処理を加えていくことで生まれる緻密な表現をモーショングラフィックスにも活かすことはできないかと考えています。アニメから影響を受けて生まれた質感が、再びアニメに溶け込んでいくことが非常におもしろいと思っています。
また、モーショングラフィックスだけで物語を表現する、ということに挑戦する機会は普段あまりないのですが、アニメーション作品に参加させてもらうことで、全力でチャレンジできる。物語・脚本からモーションのイメージを広げていくことが必要になりまし、ひとつひとつのモーションが持つ意味や与える印象を深く考えることになります。とても刺激的です。

釣井アニメ制作からの観点で言うと、モーショングラフィックスはまだ、アニメ業界に浸透した手法ではないと思います。荒牧さんや千合さんがやっている仕事はアニメ業界から見ると珍しいかもしれませんが、今後、こういったクリエイターたちがアニメの中心で関わっていくようになると、作品の幅ももっと広がって行くはずです。従来のアニメにはなかった表現が増えていって、変わったアニメが見れるようになるんじゃないかなと。それはすごく楽しみなことです。

小林今後も日本のアニメでも3DCGは増えて行くと思います。効率を考えると3DCGの方が有利なことも多いんですよね。とはいえ、手描きのアニメはなくならないと思うので、よりハイブリッドになっていきますよね。
モーショングラフィックスと3DCGは親和性が高いですし、アニメ業界でもモーショングラフィックスのニーズも高まっていくと思います。

荒牧モーショングラフィックスをやっているクリエイターでアニメに携わりたいと思っている人はたくさんいると思います。でも、モーショングラフィックスのクリエイターがアニメ業界とのコネクションは現在、そんなに多くない。今後、もっと交流が増えてよりよい作品が生まれていくと良いなと思います。

─ありがとうございました。




写真 左から
千合 洋輔
1990年生まれ。映像デザイナー、映像作家。ビジュアルディベロップメントとモーションデザインを要に、劇場作品オープニングやアートワーク、インスタレーションにおけるビジュアル設計、VJ・演出システム、映像作品を制作。近年は『MANGA⇔TOKYO』といった国外の大型展示の映像展示設計にも携わる。代表作に『龍の歯医者』OP、MIZKAN MUSEUM『時の蔵』Animationなど。https://yohsukechiai.com/
Twitter ID: @bb0yysk

荒牧 康治
1988年生まれ。首都大学東京社会学分野卒業。 映像ディレクター、モーショングラフィックスデザイナー。2018年にSIGNIF inc.を設立。抽象化したオブジェクトを用いたモーショングラフィックスを中心に、ルックや表現手法に拘った映像制作を行う。代表作に『龍の歯医者』OP、『UNIQLO TORONTO GRANDOPENNING MOVIE』、『ダーリン・イン・ザ・フランキス』OPなど。
Twitter ID: Armkkoji

釣井 省吾
1986年生まれ寅年、大阪府出身。イベント映像やVJユニット「ネオカンサイ」での活動を経て、スタジオカラーデジタル部に入社。『日本アニメ(ーター)見本市』の「龍の歯医者」「I can Friday by day!」「おばけちゃん」「カセットガール」などに参加。他、主な参加作品としては『宇宙パトロールルル子』『交響詩編エウレカセブンハイエボリューション1』。『ダーリン・イン・ザ・フランキス』では3DCGディレクターを務めた。
Twitter ID: mag0r0ro

小林 浩康
1972 年、新潟県出身。マットぺインターとして映像業界に入ったのち、CGアーティストを経てスタジオカラー参加。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』よりCGI 監督、モニタグラフィック等のデザインワークスを務めるほか、さまざまな作品にディレクター、デザイナーとして携わる。監督作に『カセットガール』『GRAVITY DAZE The Animation ~
Ouverture ~』『よいこのれきしアニメ おおきなカブ(株)』など。デザイナー参加作として『シン・ゴジラ』『ダーリン・イン・ザ・フランキス』など。
Twitter ID: virtualboys